就職して二年目のとき、あじさい組の担任をしていました。当時は年長組が二クラスで、もう一つのクラスはひまわり組でした。ある日のサークルの時間、ひまわり組の子どもがやってきて、「修学旅行にいきませんか?」と提案してくれました。私のクラスの子どもたちは、「しゅうがくりょこう?」と思いながらも、条件反射のように「いいね!」と返事をしました。6年生の兄姉がいる子が卒園するなら、自分たちも行きたい。そんな思いから始まったプロジェクトでした。「お金はどうするの?」というA先生(当時の園長先生です)の問いかけがありました。そこで、当時行われていたバザーで手作りのクッキーを売ることにし、6,900円を貯めました。そのお金を使ってどこへ行こうかと計画し、最終的には茅ヶ崎市下町屋にある明治神奈川工場を見学する、大冒険になりました。大人の思う"修学旅行"とは少し違うかもしれませんが、子どもたちにとっては紛れもない「修学旅行」でした。当時の私は、幼稚園児が言う「修学旅行をしたい」という一見とっぴな発言を受けた、A先生や先輩の先生が、子どもたちの"本気"を"かたち"にしていく姿を見ていました。そこで、子どもの声を聞く(聴く)ことを通じて、保育が作られて(創られて)いくんだということを学びました。
あれから十数年。幼稚園や小学校で担任を務め、今は園長として歩む中でも、やはり子どもたちのさまざまな声が届けられては、「どうしようか...?」と頭を悩ませつつも、うれしい日々を過ごしています。
これまでのことを改めて思い出させてくれる出来事がありました。6月24日(水)、ひとりの年長組の男の子からお手紙がきっかけです。
えんちょう せんせいへ
にっぽんを おうえんしましょう。へいわがくえんようちえんの みんなのちからで かちたいです。
ぱぶりっくびゅいんぐ したいです。
サッカー日本代表のスウェーデンとの試合が保育中にも行われるので、みんなで応援したいというお願いでした。ぜひ叶えてあげたいと思いましたが、幼稚園内では安定して視聴できる環境が整っておらず、どうしたものかと頭を抱えました。そこで、事務局のBさんに相談しました。Bさんは卒園生でもあり、時々バスの運転もしてくれています。中高生が授業や礼拝で使う広い部屋で視聴できないか尋ねると、「わざわざ、こっちに来るのは大変じゃない・・・?いろいろ、試してみるよ。」と返事をくださいました。その後、①「ふらっふぃ~」の部屋のある階にある高校生も使う教室が空いていること、②コロナ渦を機にプロジェクターを入れたため視聴が可能であることが分かりました。教室使用のための予約と試聴もすでに済んでいて、あっという間にパブリックビューイングが実現する運びとなりました。
子どもたちの想いが「かたち」になっていくとき、そのきっかけになるのは、いつも誰かの存在です。それは友だちや幼稚園の先生かもしれません。あるいは、小学校や中高の先生かもしれません。そして今回は、事務局のBさんでした。学園の中でいちばんちいさな存在である幼稚園の子どもたちの声を、"ひとりの人間の声"として聴き、捉えてくださったこと。おもしろがり、実現のために動いてくださったこと。これは、本当に幸せな景色だと思いました。
試合を終えて、引き分けという結果ではありましたが、決勝トーナメント進出が決まったという喜びとともに、お手紙をくれた男の子が職員室にやってきて、「ありがとう」とお礼を伝えてくれました。『こちらこそありがとう。』子どもたちが自分たちで生活を生み出そうとする姿を見られることは、本当に幸せなことです。
子どもの「やってみたい」という一言を、「おもしろいね」と受け止め、一緒に考え、かたちにしてくれる大人がいる。そのような人との出会いの中で、子どもたちは「自分の声は誰かに届く」という経験を積み重ねていきます。15年前の修学旅行も、今回のパブリックビューイングも、そのことを改めて教えてくれた出来事でした。
Bさん(本番も一緒に観戦してくださいました)にとっては、子どもたちとの観戦は少し賑やかすぎて、試合どころではなかったかもしれません。それでも、一生に一度くらいは、こんなサッカー観戦も悪くなかったと思っていただけたならうれしいです。
改めて、本当にありがとうございました。