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根っこの成長

2023年5月23日

根っこの成長 2023年5月「思い出の絵本はありますか?」

「先生のお気に入りの絵本は何ですか?」と聞かれることがあります。
そのたびに私は『おしいれのぼうけん』と答えています。ただ不思議な事に小さい頃読んでもらった記憶も、その絵本にいつ出会っていたのかも覚えていません。数十年前幼稚園の先生になりたくさんの絵本に触れる中、『おしいれのぼうけん』を手にしたときフッと懐かしい気持ちになったのを覚えています。絵本にでてくるねずみばあさんや押し入れの中で起きる出来事が怖くてハラハラドキドキしたこと、そして妹と押し入れに入り込み懐中電灯をつけて遊んでいた幼い頃の記憶・・・

 小さい頃の記憶は鮮明ではありませんが4人姉妹でよく遊んでいたことは覚えています。今のようにスマホやゲーム、ビデオなどはなくテレビもアニメなど決まった時間でしか観ることもできなかった我が家のルール。姉妹で鬼ごっこや縄跳び、庭に咲いている草花を使ってのおままごと。かくれんぼにトランプやお絵描き。布団やシーツで秘密基地作りをしては、押し入れに入り込んで懐中電灯を照らし絵本を読んだり・・・自分たちで遊びを考えてはケンカをしながらも毎日一緒に遊んでいたこと、楽しかった記憶です。

 おはなし作りが得意な姉は、夜になると布団の中でいろいろなお話をしてくれました。私が主人公だったり、家族が出てきたりと面白おかしなお話や少しドキドキするような不思議なお話、恥ずかしいくらい優しい事をするお話・・・ときには次の日の続きになるものもあって、眠りに入るその時間が楽しみだったのを覚えています。

 我が家にはたくさんの絵本や児童書がありました。はっきりとは覚えていませんが、母はその本棚の中にあるたくさんの絵本を読んでくれていたのだと思います。そう思えるのは自分自身が2児の母になったとき、小さいわが子に私の母は主人公を孫の名前に変えた作り話をしていたり、たくさんの絵本を読み聞かせてくれていたからです。孫と母の間に流れていた温かで穏やかな空気は、私の記憶にはないけれどきっと同じように流れていたでしょう。もしかしたら、あの小さい頃姉がしてくれていた作り話の始まりは母だったのかもしれません。母は姉にも私にもそうしてくれていたのだろう、そして姉のお話つくりの名人は母譲りだったと思うのです。

絵本からの母との記憶は思い出せませんが、確かに私の幼い頃の我が家には、絵本を通して温かな空気が流れていたのだろうと嬉しい気持ちになりました。

  私は保護者の方に「5分・・・3分でもいいから絵本を読む時間を作ってあげられたらいいですね」と話してきました。絵本を読む目的、それは子どもが心地よいと感じること、読んでもらった記憶がなくてもその時包まれていた空気や心地よさ、温かな感覚がずっと残って欲しいと願っています。おうちの方の優しい声が心の成長につながることを祈ります。『おしいれのぼうけん』からの私の中にある『懐かしい昔の記憶』。心地よかったことは成長の栄養になっていくけれど目には見えないものです。この先子どもたちもいつかお気に入りの中から懐かしい記憶をたどり、自分が大事にされ愛されていたこと、そして大切な存在であることを感じ心豊かに育ってくれることを願います。でもそれが人格形成の基盤になっていくと信じて子育ての時間を大切にしていきたいものです。でも私自身は子育てで忙しい毎日に余裕がなくわが子に充分な関わりができない事の方が多く、ゆっくり絵本を読んだりじっくり話を聞いてあげるなどできないこともありました。

 子育てに不安になることもありますが、日々の何気ない時間、生活の中で起きる些細な出来事・・・その些細な出来事や時間を大切に目の前の子どもと過ごしていきたいと思います。